「―まさか貴方までがこんなところに来てくれるとはね」

軽く場に走った沈黙を破って、黒鷹はお決まりの笑みを作った。
侮っているような、何かを隠しているような――玄冬と二人きりになってからは久しく見なかった顔だ。


 第二話 ― 懐かしい痛み ―



「で、どうしたんだい急に?
 救世主に白の鳥がお揃いとは、おだやかじゃないね」

冗談めかして口にしながらも、わずかに声に警戒の色が混じる。
何気ないふうを装って、一歩前に出る。玄冬を後ろに庇うように。軽く抗議の声が上がったが、無視した。

「それに、その子どもはなんだい? もう当然人としての生を終えるだけの時間がたったっていうのに全然成長してないじゃないか。まさか代変わりしたのかい?」
「なっ、ぼくはぼくだよっ! 目ェ腐ってんじゃないの!?」
「ふむ。その貧弱なセンス、やはりちびっこに間違いないようだが」
「くっ……そっちこそ、そのイヤミな口、全然変わってないじゃないか」
「私達はもう箱庭の時の流れにはしばられてない。当然だろう?」
しゃあしゃあと言ってのけた黒鷹は、ふいに真面目な顔になって白梟に向きなおった。
「だけど、箱庭から出なかった救世主にそれは適用されないはずだ。……それに、貴方は……」

「花白に、殺された。…ですか?」
黒鷹は、真剣な目をしたまま、困ったように少し笑った。玄冬も当惑した表情で二人のやりとりを見守っている。
あのとき、白梟は花白の剣に倒れたはずだ。

しかし、次の白梟の科白は二人の予想を軽く越えていた。

「主がバックアップデータで再生してくださいましたが、それが何か?」

「……バック…アップ?」
「ええ、箱庭のデータはすべて管理者の塔に蓄積されていますから。
 どちらかの鳥が喪われたときは、主の疑似人格が自動で立ち上がって、バックアップを元に私達を再構築してくださることになっていたではないですか」
「…え?」
「……まさか、忘れていたのですか?」
「…ええ!? ちょっと待ちたまえ! いつそんな説明があったんだい?」
「この箱庭を造られたときですよ。貴方もいたではないですか」
白梟は怪訝そうに眉を寄せて黒鷹を見た。

「主の理想は、ご自分が手を出されなくても永久に稼働するシステムですから。救世主と玄冬には転生のプログラムが組まれましたけど、私達「鳥」は創世からの記憶を保持していないとなりませんから、転生ではなく完全再生って…。データ量が大きいからすぐにとはいきませんけど、その間は主の疑似人格が代理を努めてくださると……貴方、聞いていなかったのですか?」
「…あの時は…悪趣味なシステムだなと思って…あんまり…」
茫然と呟く黒鷹に、白梟は大きな溜め息をついた。
「ほらみなさい。だから貴方は不真面目だというのです。
 私だって再生されるとわかっていなければ、あんなにあっさり殺されたりはしません。
 管理者の塔の機能を停止され、玄冬システムが終わらない限りは、私達が死んでは困るではないですか」
「……」
「それから、救世主は普通の人間ですけれど、玄冬に出会う前に老衰で死んでしまっては困るのである程度成長がリンクしているのですよ?そのリンク対象をシステム外に連れ出したりするからこういうことになるのです」
「へ、へえ〜…………」

「…おい。俺はそんないい加減な情報をもとに選択させられたのか…?」
「サイテー…」
「うっ、なにやら子どもたちから痛い視線が!?
 そ、そうだ、それで結局ここには何の用で来たのだねっ?」

「玄冬に会いに」
「箱庭の温暖化を止めるために」

「…相変わらず、意見の一致が図れてない親子だね…」
「というか、温暖化って何の話だ?」


怪訝な表情になった玄冬と黒鷹を前に、白梟は静かに口を開いた――




|| BACK || NEXT ||
|| TOP ||



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送